長崎家庭裁判所 昭和40年(家)1042号 審判 1966年4月08日
申立人 長崎市立○○○○○○荘
右代表者 長崎市長 田川務
被相続人 岡田タツ(仮名)
主文
被相続人岡田タツの相続財産である現金一万二、五三四円を長崎市立○○○○○○荘に与える。
理由
(申立の要旨)
「被相続人岡田タツは、昭和三七年四月一二日生活保護法上の施設であつた長崎市立○○養老院に収容され、右養老院が老人福祉法上の施設に移行し長崎市立○○○○○○荘と改称した後も、同施設で介護または看護を受け、昭和三八年一月二九日の死亡時には死水まで取つて貰つた関係にある。従つて右○○○○○○荘は、右被相続人の特別縁故者というべきであるから、右被相続人の相続財産についてその分与を求める。」というものである。
(当裁判所の判断)
右被相続人の死亡により、同人の相続財産管理人として長崎市福祉事務所長草野貞治が選任され、相続債権者及び受遺者えの請求権申出の催告、次いで相続人捜索の公告がなされたが、期限までにいずれも該当者の申出がなかつたことは、昭和三九年(家)第九〇四号、同四〇年(家)第三二〇号事件記録によつて認められる。次に、岡田タツの除籍謄本、中川三郎作成の特別縁故関係の疎明書、当裁判所調査官の調査報告書によると、前記申立の要旨に記載のような特別縁故関係についての事実のほか、次のような事実が認められる。長崎市立○○○○○○荘は、昭和二三年四月一日長崎市が財団法人長崎市社会事業助成協会から、同協会が福祉事業として運営していた長崎市稲佐養老院の施設一切の寄付を受け、その福祉事業を承継していたものであつて、その後生活保護法の施行により同法上の福祉施設として、以後老人福祉法人の福祉施設として今日に至つていること、同施設の運営は、長崎市議会の議決によつて予算の配付と、国の補助金を受け、その支出は長崎市長の最終責任の下に市役所会計課を通じてなされ、会計監査を受けること、また右施設の管理は、長崎市立○○○○○○荘管理規則にもとづき、長崎市長の指揮監督を受けるところの長崎市福祉事務所長の命により事務を処理する事務長一名と、その指揮監督の下に各定められた職務を行う主任、事務員、寮母、看護婦、栄養士、現業員等によつて福祉事業が管理遂行されていること。また規則上の明文はないれけども、実際上の運営として右○○○○○○荘自体が他からの寄付や贈与を受け、これらの金員○○○○○○荘の保管金として(現在七万円位)計上し、事務長の責任で老人福祉のため支出され、同支出についても一般の会計監査を受けていること、以上の事実が認られる。
ところで、本件のように地方公共団体の福祉施設である○○○○○○荘自体が、特別縁故者として相続財産分与の申立をなしうるかについて疑問があるけれども、被相続人との特別縁故関係は、自然人や地方公共団体を含む法人は勿論のこと、いわゆる法人格なき社団ないし財団についても生ずることが充分考えられるのみならず、特別縁故を理由とする相続財産分与の申立は、広く一般に対し取引関係に入るものでもないから代表者ないし管理人の定める法人格なき社団ないし財団に対しても特別縁故者としての資格を認むべきである。本件申立人である長崎市立○○○○○○荘についても、本来地方公共団体である長崎市自体が特別縁故者として相続財産分与の申立をなしうるものと解するのであるが、前認定の○○○○○○荘の管理、運営の実態に照らして、本件相続財産分与の関係においては、右法人格なき社団ないし財団と同視し得るものがあり、特別縁故者となり得るものと解する。また、このように解して○○○○○○荘に相続財産を与え、同施設において被相続人と同境過にある者のため使用することは、被相続人の意思にも合致する所以であると思料される。そして前記事実によると○○○○○○荘と被相続人との間には特別縁故関係が認められるから、右被相続人の相続財産の残存金と認められる金一万二五三四円を全部長崎市立○○○○○○荘に与えることが相当である。
よつて主文のとおり審判する。
(家事審判官 萩尾孝至)